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大阪地方裁判所 昭和51年(ワ)5293号 判決

原告

梅田電機株式会社

右代表者

絹谷勇

右訴訟代理人

中里栄治

被告

株式会社協和銀行

右代表者

色部義明

右訴訟代理人

中村健太郎

中村健

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告

1  被告は原告に対し、金一〇〇〇万〇三〇〇円及びこれに対する昭和五一年四月三日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

主文と同旨

第二  当事者の主張

一、請求の原因

1  原告は電気機器の販売を業とするものであり、被告は銀行業を営むものである。

2  原・被告間において、昭和四三年一一月二一日、当座勘定取引契約(以下「本件契約」という。)を締結し、原告振出の手形・小切手につき、原告の計算において被告の福島支店における原告の当座預金から支払することを委託し、被告は支払担当者として、原告のために当該手形・小切手の支払をなす義務を負担とするとともに、偽造にかかる手形・小切手については支払をしてはならない義務をも負担することとなつた。

3  別紙目録(一)ないし(四)の手形・小切手(額面合計一〇〇〇万〇三〇〇円、以下「本件手形・小切手」という。)は、いずれも訴外甲野花子(以下「甲野」という。)が偽造したものであり、被告は支払担当者として、本件手形・小切手の支払をしてはならないのに、原告の当座預金から、別紙目録(一)記載の約束手形(以下「(一)の手形」という。)については昭和四七年六月二三日に二五〇万円を同目録(二)記載の小切手(以下「(二)の小切手」という。)については昭和四八年三月三〇日に四〇〇万円を、同目録(三)記載の小切手(以下「(三)の小切手」という。)については同月三一日に一五〇万円を、同目録(四)記載の小切手(以下「(四)の小切手」という。)については同年一二月二四日に二〇〇万〇三〇〇円をそれぞれ所持人に支払つた。

4  前項記載の被告の債務不履行により、原告は合計一〇〇〇万〇三〇〇円の当座預金が減少し、同額の損害を被つたので、原告は被告に対し、昭和五一年四月二日本件契約を解約するとともに右損害の賠償を求めた。

5  よつて、原告は被告に対し、本件契約上の債務不履行に基づく損害賠償義務の履行として、一〇〇〇万〇三〇〇円及びこれに対する昭和五一年四月三日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3のうち、本件手形・小切手はいずれも甲野が偽造したものであることは否認するがその余の事実は認める。

甲野は昭和三九年ころ原告に入社し、昭和四四年ころから原告の経理責任者として経理全般の業務を担当し、原告代表者から原告代表者実印の所持・保管を委ねられ、原告の預金の出し入れ、手形・小切手の振出銀行からの借入れ等銀行取引をなす権限を与えられ、その任にあたつてきた。また、原告代表者と甲野は昭和四三・四年ころから昭和四八・九年ころまで継続して肉体関係を有し、親密な間柄にあり、両名は昭和四四・五年ころ両者の名前の頭文字をとつた株式会社○○○○商会(代表者甲野、以下「訴外会社」という。)を共同して設立し、両者が共同して経営にあたり、また被告の原告に対する貸付金の担保として、(1)、甲野の預金を差入れ、(2)、昭和四五年七月七日には訴外会社所有の不動産に根抵当権設定登記を経由し、(3)、昭和四八年一二月一三日には甲野の夫甲野信明所有の不動産に根抵当権設定登記を経由した。

以上の事実から明らかなように原告代表者と甲野は共同経営者的立場にあり、又は少くとも経理担当責任者として、本件手形・小切手を振出す権限を有していたことは明らかであり、本件手形・小切手は甲野により偽造されたものではない。

3  同4のうち、原・被告間において昭和五一年四月二日本件契約を解約したことは認めるが、その余の事実は否認する。

以下の理由により(一)の手形、(三)の小切手につき被告が支払をしたことにつき、原告に損害は発生していない。

(イ) (一)の手形は原告が明昌特殊産業株式会社に対し、負担している債務の支払のために振出されたものであり、同会社に入金になつているものであるから損害の発生はない。

(ロ) (三)の小切手は原告が松本観光株式会社から借入れた債務の返済のために振出されたものであり、同会社に入金になつているので損害の発生はない。

(ハ) (一)の手形及び(三)の小切手が原告代表者に無断で振出されたとしても、甲野には前記3記載のように原告代表者名で手形・小切手を振出す一般的権限があつたから、権限の濫用があつたにすぎず、右事実を知らない受取人である前記両会社に対し、法律上当然に支払義務がある。

(ニ) また、(一)の手形及び(三)の小切手の振出しについて、甲野に権限がなかつたとしても、甲野には前記3記載のような権限を有していたのであるから、商法四三条二項の規定により右代理権に加えた制限をもつて善意の第三者である前記両会社に抗対することはできず、原告は法律上支払義務がある。

(ホ) (三)の小切手について、甲野が自ら横領した金員の穴うめに松本観光株式会社から手形を借りて原告に入金し、その返済のために甲野が無断で(三)の小切手を振出したとしても、原告の損害は甲野が横領した時点で発生しているので、被告が(三)の小切手につき支払つたとしても新たな損害の発生はない。

(ヘ) 仮に右が認められないとしても、原告は甲野の(三)の小切手の振出行為につき民法七一五条に基づく損害賠償責任を松本観光株式会社に対し、負担している。

三、抗弁

1(一)  本件契約においては、「原告が振出した手形・小切手の振出人欄に押捺されている印鑑と原告があらかじめ被告に届出た印鑑とを相当の注意をもつて照合し、相違ないものと認めて支払つた場合には、手形・小切手が偽造のものであつても被告は責任を負わない。」旨の特約(以下「本件免責約款という。)がなされていた。

(二)  原告は本件契約に基づき、印鑑届出書裏面に原告の記名判(以下「本件記名判」という。)、丸印の原告代表者実印(以下「本件実印」という。)を押捺し、同裏面には当座勘定取引に使用する印鑑は表記のとおり届出る旨の記載があり、右届出書表面には四角の法人印章(以下「本件角印」という。)、本件記名判、丸印の銀行取引印(以下「本件取引印」という。)を押捺し、本件実印の印鑑証明書を添付して届出た。

(三)  本件手形・小切手にはいずれも本件角印、本件記名判、本件実印が押捺されているところ、本件角印・本件記名印判は届出印と同一と認め、本件実印については届出書裏面に押捺されている本件実印と同一と認めて所持人に対し支払をしたものである。

(四)  前記(一)記載の約定にいう届出印とは前記届出書裏面に押捺されている本件実印をも含むものと解すべきであり、被告らが(三)記載のとおり本件手形・小切手の印影と届出印章とが一致しているものと認めて支払つた以上、被告は本件免責約款により免責されるものというべきである。

2  仮に届出印章が前記届出書表面に届出た印章のみを指し、本件実印は届出印章ではないとしても、本件手形・小切手に押捺されている本件実印は原告代表者の実印であり、前記届出書に印鑑証明書を添付したうえ押捺されている印と同一であり、実印は通常本人が自ら保管し、銀行取引以上に真正の推定が働くものであり、更に、本件手形・小切手はいずれも被告発行の用紙であり、本件角印、本件記名判は届出られたものと同一であり、また、原告から盗難、紛失等の事故届はなかつたものである。

右の事実に照らせば、被告には本件手形・小切手を真正に発行されたものと認めて支払をなしたことにつき過失はないものというべきである。

3  更に、(二)の小切手については、甲野が直接持参し、呈示したものであるが、請求原因に対する認否2記載のとおりの事情があるうえ、甲野は原告の当座取引、貸付・手形割引に関し、度々被告銀行に来店し、右(二)の小切手につき支払を受けた金員を原告代表者名義の普通預金口座に振替入金し、更に持参していた原告代表者の届出印鑑をもつて払戻手続をする等原告代表者の指示により(二)の小切手を振出し、持参したものと認められるような状況にあり、被告が(二)の小切手につき真正に振出されたものと信じてその支払をしたことについて過失はない。

4(一)  本件契約において、被告が原告に対し所定の時期に当座勘定の受払の明細や残高の報告をなし、これに対し原告が二週間内に異議の申立をしないときはその支払や残高を承認したものとみなす旨の特約がなされており、被告は原告に対し、受払の明細を記載した照合表を当座勘定元帳が一枚終るごとに、(昭和四八年二月にオンラインが開始された後は一か月に一回)送付し、更に、毎年二月及び八月に当座勘定残高を送付してきた。

(二)  ところが、(一)の手形については遅くとも昭和四七年八月までに、(二)及び(三)の小切手については昭和四八年四月に、(四)の小切手については昭和四九年一月に右の支払の事実を確認しているにもかかわらず、被告に対し何ら異議の申立をしなかつたので前記特約により被告の支払を追認したものというべきである。

(三)  また、当座取引による一般の銀行業務において、当座勘定の照合表を取引先に交付することにより、受払の明細や残高を照合する機会を与え、取引先においてこれに異議を述べなかつた場合には当座勘定契約の交互計算契約的性格から後日異議の申立ができないとの取引慣行があり、右取引慣行によつても原告は被告の本件手形・小切手の支払を追認又は承認したものというべきである。

5  被告は昭和四八年一二月二四日(四)の小切手につき支払をなしたが、翌二五日原告代表者から(四)の小切手に押捺されている印影を調べて欲しい旨の依頼があり、本件実印が押捺されている旨回答したところ、同日本件取引印を押捺した同日振出の小切手を持参し、(四)の小切手との差替えを求め右支払を追認した。そして、昭和四九年一〇月四日(四)の小切手の支払について被告の責任については問わない旨明言し、原告は被告の債務不履行の責任を免除した。

6  仮に以上の主張がいずれも認められず、被告に債務不履行責任があるとしても、原告にも重大な過失があるので、損害の算定にあたり右過失を斟酌すべきである。

すなわち、原告代表者は前述のように甲野を原告の経理責任者として経理全般の仕事を担当させ、預金・現金の管理、手形・小切手の振出、借入等の銀行取引に関する重大な権限を与えていたが、原告代表者は甲野と肉体関係を有する等個人的に親密な間柄にあり、甲野の職務執行に対する監督が不十分であり、本件実印や手形帳、小切手帳の管理がずさんであり、容易に盗用し得る状況にあり、被告から原告に対し送付した当座勘定取引に関する照合表をその都度十分にチエツクしなかつたため、本件手形・小切手の偽造を誘発したものである。

四、抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)、(二)の事実は認める。同(三)のうち、本件手形・小切手にはいずれも本件角印、本件記名判、本件実印が押捺されていることは認めるが、その余の事実は否認する。同(四)は争う。

本件手形・小切手に押捺されている本件実印と被告に届出た本件取引印は明らかに異り、被告は肉眼による印鑑照合をしなかつたものである。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実は否認する。

4  同4(一)のうち、被告が原告に対し、受払の明細を記載した照合表を当座勘定元帳が一枚終るごとに(昭和四八年二月にオンラインが開始された後は一か月に一回)送付してきたことは認めるが、その余の事実は否認する。

同4(二)、(三)の事実は否認する。

預金者である原告において当座勘定照合表をチエツクすべき義務はない。

5  同5の事実は否認する。

6  同6の事実は否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1及び2の事実、並びに被告が原告の当座預金から(一)の手形につき昭和四七年六月二三日に二五〇万円を、(二)の小切手につき昭和四八年三月三〇日に四〇〇万円を、(三)の小切手につき同月三一日に一五〇万円を、(四)の小切手については同年一二月二四日に二〇〇万〇三〇〇円をそれぞれ所持人に支払つたことについては当事者間に争いがない。

二そこで、本件手形・小切手が真正に振出されたものか否かについて判断する。

〈証拠〉によれば次の事実を認めることができる。

(1)  原告は昭和二九年ころ資本金一〇〇万円で設立された電気機器等の製造販売を業とする株式会社であるが、その後発展を遂げ、昭和四八・九年当時において資本金三〇〇〇万円、従業員数八〇名ないし九〇名を擁していた。

(2)  甲野は昭和三九年七月一日経理担当事務員として原告に入社し、売掛金、買掛金等の記帳、集計・小口現金払等の業務を担当していたものであるが、昭和四三年四月ころからは集金した代金、手形の保管、預貯金の出し入れ、支払の準備等経理事務全般を扱うようになつた。そして、手形・小切手の振出事務については請求書等に基き本件取引印を押捺する以外の事務は全て甲野において準備、記入し、最後に原告代表者に帳簿、請求書に基いて説明したうえ、原告代表者自ら本件取引印を押捺し、振出行為を完成するのが通常であり、例外的に原告代表者が出張のときには本件取引印を甲野に預け、緊急の場合には総務部長の角本尚文の承認を得て手形・小切手を振出すことを許したが、その場合には原告代表者が帰社した後に事後報告することになつていた。

(3)  本件取引印は原告代表者自身が前記出張の場合を除いて常に携帯しており、本件実印は原告代表者の机の引出しの中のダイヤル式手提金庫の中に入れて右引出しに鍵をかけて保管し、本件角印、本件記名判、手形用紙、小切手用紙は右机の引出しの鍵とともに、ダイヤル及び鍵付大金庫の中に保管しており、甲野は昭和四四年末ころから右手提金庫及び大金庫のダイヤルナンバーを記憶しており、かつ大金庫の鍵は甲野が常に所持していた。

(4)  甲野は昭和四七年四月一八日ころ(一)の手形を、昭和四八年三月三〇日ころ(二)及び(三)の小切手を、同年一二月二四日ころ(四)の小切手を、いずれも手形用紙・小切手用紙を流用し、原告代表者の机の中の手提金庫の中から本件実印を取り出し、冒用して、それぞれ作成した。

以上の事実が認められ、〈る。〉

ところで、〈証拠〉によれば、原告代表者と甲野は昭和四二年ころから肉体関係を有しており、個人的にも親しい関係にあつたこと、原告代表者の指示により甲野は昭和四五年五月ころ休眠会社であつた関西コントロールズ株式会社を買収して訴権会社に名称変更し、同会社の代表者に甲野を就任させたこと、そのころ同会社名義で京都市下京区河原町正面下ル万屋町三三二番地・同三三三番地所在の宅地、建物を購入し、更に原告が右建物を賃料二〇万円、敷金二〇〇万円で賃借したこと、同年六月二五日、被告は原告に対する本件契約から生ずる債権を担保するため、右宅地・建物に極度額一五〇〇万円の根抵当権を設定し、同年七月七日、その旨の登記を経由したこと、更に、被告は原告に対する本件契約から生ずる債権を担保するために、昭和四八年一二月一二日、甲野の夫である甲野信明所有の○○市○○○五三番地の一七所在の宅地建物に極度額一五〇〇万円の根抵当権を設定し、同月一三日その旨の登記を経由したことが認められるが、右事実から直ちに、甲野と原告代表者が原告会社を共同経営していたこと、又は甲野に原告の手形・小切手を振出す権限があつたことまで推認することはできず、右の事実は前認定の事実と矛盾するものではない。

前認定の事実によれば、本件手形・小切手はいずれも甲野が偽造したものであり、原告においていずれも支払義務のない手形・小切手であつたにもかかわらず、被告において支払つたものであり、被告には本件契約上の債務不履行があつたものというべきである。

三そこで、抗弁1について判断する。

1  本件契約において本件免責約款の特約がなされていたこと、原告は本件契約に基づいて印鑑届出書を提出し、その裏面に本件記名判及び本件実印を押捺してあり、当座勘定取引に使用する印鑑は表記のとおり届出る旨の記載があり、右表面には本件角印、本件記名判、本件取引印を押捺してあること、原告は右届出書に本件実印の印鑑証明書を添付して届出たこと、本件手形・小切手の各表書部分にはいずれも本件角印、本件記名判、本件実印が押捺されていることは当事者間に争いがない。

2  被告は、本件免責約款にいう届出印とは印鑑届出書表面に押捺されている本件取引印のみを指すのではなく、届出書裏面に押捺されている本件実印も含まれる旨主張するが、乙一・二号証、四号証の記載内容に照らすと、本件免責約款にいわゆる届出印とは本件取引印、本件角印、本件記名判を指し、本件実印を含まないものと解すべきであり、被告の右主張は理由がない。

よつて、被告の抗弁1はその余の判断をするまでもなく理由がない。

四そこで抗弁2について判断する。

1  〈証拠〉によれば、本件手形・小切手についてはいずれも被告行員が印鑑の照合をなし、本件実印が押捺されている部分は届出印である本件取引印と相違していたが、印鑑届出書裏面に押捺されている本件実印と同一の印影であつたので、真正に振出されたものと信じて、原告の当座預金から所持人に対し支払つたものであること、本件手形・小切手はいずれも事故届出は出されておらず、被告発行の手形用紙、小切手用紙が使用されており、手形・小切手の要件に不備がなかつたこと、原告は被告福島支店にとつてかなり大口の取引先であり、本件手形、小切手の額面金額は不自然と思われる程多額ではないこと、訴外相互信用金庫においても昭和四八年一二月二五日本件実印を押捺した偽造小切手について支払をなしていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  ところで、通常、銀行取引印は経理担当者に預託することはあつても、会社代表者の実印は会社代表者自身が所持すべきものであり、実印の保管には銀行取引印の保管と同等、あるいはそれ以上の注意義務を要するものである。また、実印を使用することによる手形小切手の偽造は銀行取引印を使用することによるその偽造と同等、あるいはそれ以上に偽造が困難であるものというべきであり、その反作用として、実印が押捺されている手形・小切手は銀行取引印と同等の真正に成立したことの推認が働いているものというべきである。

3  そして、本件についてみるに、確かに本件手形・小切手には届出印である本件取引印が押捺されていないものであるが、本件手形・小切手には本件実印が押捺されていること、また印鑑届出書において本件実印は本件取引印の届出の根拠をなしており、届出印を改印すべき効力を有していること、本件実印は届出書裏面に押捺されており、本件手形・小切手に押捺されている本件実印との照合が可能であり、被告行員は右両者を照合の結果本件手形・小切手に押捺されている印影と届出書裏面に押捺されている本件実印とが一致したので前記支払をなしたものであること、その他本件手形・小切手には偽造を疑わせるような事情は認められなかつたこと等前認定の諸事情、並びに前2記載の一般取引通念に照らすと、被告行員において、本件手形・小切手が真正に振出されたものと信じ、取引先である原告に照合せずに前記支払をなしたとしても、右支払つたことにつき過失はなかつたものというべきである。

よつて、前記債務不履行については被告に過失がなかつたものというべく、被告の抗弁2は理由がある。

五以上の次第であるから、原告の本訴請求はその余の判断に及ぶまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(田中清)

目録〈省略〉

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